化学繊維の製造技術が確立されている現代、
帆布は、少なくともその機能において化繊に勝ることはなく、
時代遅れの遺物なのかもしれません。
しかし、
天然素材の糸を用い、
人間の知恵と努力で紡ぎ出した技術を駆使し、
人々の暮らしを支えるために織り上げられてきた布には、
単なる工業製品で終わらない何かがあると、
私はずっと感じてきました。
生まれたての倉敷帆布は、
決して軽やかではなく、しなやかでもありませんが、
その素朴な表情、時が経つほどにやさしさを増す風合いは、
物を慈しみ、大切にする気持ちを思い出させてくれます。
1本1本の糸を丁寧に撚り合わせ、
職人の腕と昔ながらのシャトル織機で織り上げる工程は、
“効率化”とは相反するものですが、
それは魂を宿すための大切な時間だと考えています。
そして、
この倉敷帆布という素材の価値は、
使っていただく皆さまのこころの中にある──。
愛してくださる皆さまとともにある──。
私は、我が子の成長を見守るように、
この布のしあわせな将来を想像します。
皆さまの暮らしの中で愛される、その姿を。
倉敷帆布株式会社 代表取締役 武鑓篤志